わたしが薬学の臨床研究を通して学んだこと、気づいたことについて綴ります。
文字数が多めなので、目次の機能を使って興味があるところから読んでみてください。タッチすると該当するところに飛ぶようになっています。
また、各セクションの最初にポイントを示してあります。研究者や大学教員を目指すひとじゃなくても、読みやすい内容を心がけました。
薬学の研究とはなにか
・研究=未知のことを調べること
・リサーチクエスチョンは日常に多数存在する
・研究結果はまずは学会発表が目標
・その後ブラッシュアップして論文化を目指す
・薬剤師の有用性を示すのはわたしたち?
研究とは「ある課題について情報収集して、現時点で解明済みのことと未解明のことを整理して、客観的なデータに基づいて新事実を明らかにすること」です。
したがって研究には未解決の課題が必要になります。これがリサーチクエスチョンです。もちろん難解であればあるほど、評価が大きくなります。たとえば長い期間にわたって人類を悩ませていた課題を解決すれば、ノーベル賞などの高い評価に値します。
自分のために行うのではなく、社会のために行うところに研究の意義があります。身近なところにも課題は数多く存在し、薬剤師の場合、日常業務に関係する課題も研究テーマになり得ます。
薬学の研究の進め方
リサーチクエスチョンが見つかったら、仮説を立てます。仮説を検証するために行うのが調査です。臨床薬学に関する研究であれば、カルテ調査やアンケート調査があります。
まずは学会発表が目標
研究で成果を得られたら発表を行います。初めてのひとにおすすめなのが学会発表です。わたしも経験しました。自分の研究分野に関連した学会で発表することで、その分野の専門家からフィードバックを得ることができます。
要旨集を見て発表内容に興味を持ってくれた方が発表を聴いてくれるからです。成果がほかの医療従事者に伝わることで、内容が受け継がれたり、さらに発展される可能性があります。メディアに取り上げられるかもしれません。
次のステップが論文投稿
学会発表したら次のステップとして論文化があります。論文を投稿すると、最低2名の査読者(レビュアー)による審査があります。査読者の指摘に応じて修正を行い、アクセプトされた場合のみ論文として掲載されます。したがって、学会発表より論文投稿のほうがエビデンスレベルが高くなります。
また、英文で論文投稿すれば、世界中の医療従事者に情報発信することができます。薬学部6年間で論文投稿まで行く学生はほとんどおらず、ここまで行ければ就職などでかなりのインパクトになります。業績としても一生残ります。わたしも目指していますが、難しそうです。
薬学生が研究する理由とメリット
薬学生に限ったことでありませんが、研究のプロセスで問題解決能力と研究力を育むことができます。多くの大学で卒業研究が必修なのはこのためです。
また先ほども述べましたが、論文投稿を行う薬学生はほとんど存在しないため、卒業後のキャリア形成におけるアピールにもなります。学部時代の研究を足掛かりに専門性を積んで博士号を目指すこともできます。博士号は病院や企業で出世するために重要です。
また、少し間接的になりますが、薬剤師の仕事が世の中に貢献していることを広く示すメリットもあります。社会的な意義は非常に大きいです。
薬学の研究テーマはどうやって決めるか
身近なところにテーマはたくさんあります。ただし、大学や研究室ごとに扱うことのできるテーマは違います。
研究してみたいテーマが見つかったら、関連内容を扱っている研究室を見学してみると良いと思います。
薬学の研究に必要な情報の収集
・オリジナリティのため先行研究の調査を行う
・論文は批判的に読む
・集めた論文は引用のために整理しておく
・インターネットをフル活用する
ある研究課題を思いついたときに最も大切なのは、オリジナリティがあるか否かです。研究において新規性や独創性は重要で、すでに誰かが証明や報告をしている課題はほとんど価値がありません。
もちろん同じ研究課題でも、対象や領域、調査方法、解析手段などが違えばオリジナリティはあります。先行研究を調べて、自分の研究にオリジナリティがあるのかを確認します。
論文の数が多い領域は研究しつくされていると思いがちですが、必ずしもそうではありません。大切なのは着眼点です。重要な先行研究を引用することで、自分の研究の意義を説明できます。そのテーマでオリジナリティのある研究成果を出せれば、高い評価を得られる可能性も高いです。
論文の種類
なんらかの課題に目を付けたときは、現時点でどこまで研究されているのかを調査する必要があります。このため研究領域の学会誌に掲載された論文を検索してどのような報告があるかを確認します。論文の種類は以下の通りです。
原著論文
論文と言えば通常は原著論文を指します。原著論文は学会誌によって、研究内容や得られた結果で分類されることがあります。分類の一例を示します。
- 一般論文(Regular article)
- ノート(Note)
- 速報(Letter)
いずれも複数の専門家の査読(Peer review)があります。原著論文は、査読の結果オリジナリティのある研究として学会誌から価値が認められたものとなります。
症例報告(Case report)
新しい仮説を証明できるほどではないですが、その領域の研究者にとって学術的価値がある症例や事例を報告したものです。
総説論文(Review)
特定の領域の原著論文の内容をまとめて分類したり、わかりやすく解説したものです。その分野の概要や最新の状況を確認するのに有用です。また、総説論文には著者が確認した多くの引用文献が示されています。
ここを参照すると効率よく原著論文を探すことができます。したがって先行研究を探すときは総説論文から読み始めることがおすすめです。
論文は批判的に読み込む
論文は批判的に吟味しなさいとよく指導されます。内容が必ずしも正しいとは限らないからです。特に統計解析は、別の処理やソフトだと同じ結果が出ないこともあります。妄信せず批判的に読むことが求められます。
既存の文献を調べる
先行研究を調べるメリットはたくさんありますが、特に重要なポイントは2つです。
- 自分の研究がまだ誰もやっていない内容だと確認すること
- 自分の研究が学術的にどのような意義を持つか確認すること
先行論文に書かれている研究背景や証明済みの事実は積極的に引用します。「○○までは証明されているから□□について証明する必要があって、そのために自分の研究では△△という検証を行う」という枠組みづくりに役立ちます。
また、病院や薬局における臨床研究では、アンケート調査や聞き取り調査などを実施して、結果を分析することが多いです。分析時は統計処理によって有意差があるかどうかを示すことがほとんどです。先行研究で使われている統計手法を確認しておくと助けになるかもしれません。
あわせて調査票を作るときには、学会で提唱されている調査方法、先行研究で有効性が確認された調査形式がないかも調べます。こういった形式がある場合は取り入れていくと、自分の研究結果の信頼性に繋がります。
引用文献(Reference)の準備
研究成果をまとめて論文を作成するときは、研究背景から研究方法、解析について参考にした先行研究を「引用文献」として掲載する必要があります。そのため、参考にした資料はしっかり整理して保存しておきましょう。
わたしは研究初期の段階で参照していた文献を保管していなかったため苦労しました。なお「引用文献」の記載の仕方は学会誌ごとに異なるので注意です。
先行研究を探す具体的な方法
- Google Scholar
- PubMed(パブメド)
- 医中誌
- iyaku research
- J-STAGE
- Minds
わたしがよく使ったのは2と3です。PubMedは世界中の研究者が使う最も有名な検索サイトです。ただし、表記が英語なのである程度の英語力が必要です。ひとつ裏技として、Google Chromeのプラグイン等を活用して、ブラウザの翻訳機能を利用して読む方法があります。
最近では自動翻訳のクオリティが上がってきているので、意外と違和感のない翻訳をしてくれます。自動翻訳で流れを掴んだあとに、重要な部分だけ原文を読み込んでいくとよいかもしれません。
少し話が逸れますが、自分の研究論文がPubMedに載るようになれば、世界の研究者に仲間入りしたことになります。それを目指していきたいですね。
文献検索以外の情報収集
図書館を活用することや学会に入ることなどが挙げられますが、研究分野によって差があるので今回は割愛します。
薬学研究の計画について
・研究目的は1つに絞る(明確化)
・段階的な計画を立てる
・研究計画書は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に沿って作成する
研究方針を立てる
自分のテーマが見つかって、先行研究を調べると、疑問点や問題点が明らかになってきます。この「明らかにしたいこと」が研究の目的にあたります。このとき多くのことに関心があったとしても目的(課題)は1つに絞ったほうが良いです。
研究は段階的かつ継続的に行うものなので、1つ目の段階から得られた情報を、次の段階に活かしていくというスタンスが大切です。
なお臨床研究の目的は概ね3つに分類されます。自分の知りたいことがどのタイプに該当するのか確認しておくと、研究計画書を書くときにスムーズかもしれません。
- 予防、診断、治療方法の改善
- 原因、病態の解明
- 臨床上の問題の解決
研究の方法は、課題や仮説を説明するために、どのようなデータが必要なのか、また、それをどのように収集し、集計、分析、評価すればよいのかなどを考えながら決めます。結果をイメージして、方法を考えるということです。
質的研究と量的研究
たとえば、かかりつけ薬剤師を決めたいと思うまでの患者心理について明らかにしたい場合、わたしたち(研究する側)が〇〇だろうと考え設定した仮説を検証するだけでは不十分な場合があります。
このように人の行動を説明するためには、アンケート調査や実験データを集めて統計解析するような手法(量的研究)よりも質的研究が適する場合があります。質的研究では、行動や現象を観察してデータを収集し、客観的に評価することによって仮説を作っていきます。心理系の研究などで使われる手法です。
倫理審査⇒被験者の選定⇒インタビュー実施⇒テキストマイニング⇒カテゴリ作成のように進んでいくようですが、経験がないので詳しくはわかりません。質的研究に興味がある場合は、詳しい先生がいる研究室を探してみるとよいと思います。
それに対して量的研究は、仮説の設定⇒測定尺度の設定⇒調査や実験⇒集計と統計⇒仮説の検証と進んでいきます。わたしは量的研究を行いアンケート調査を実施しました。アンケート調査の流れについては別の投稿で簡単にまとめてあります。
研究計画書の作成
目的と背景を明確にして、結果イメージしながら、方法を策定すれば、研究計画書が書けます。きちんとした研究計画を立てることは、研究の遂行において非常に重要なことなので、しっかり時間をかけて考える必要があります。ここであやふやな点があるときは前のステップに立ち返ります。
薬学研究の研究倫理
・臨床研究ならば倫理審査は(ほぼ)必須
・単なる思いやりではダメ
・倫理審査委員会の承認を得よう
薬学研究における侵襲について
一般的にアンケートなどの質問紙による調査は、侵襲がないまたは軽微な侵襲とみなされます。アンケートの提出が自発的に行われる場合では、インフォームドコンセントを別に取る必要もないとされています。ただし、災害経験など心的負担の大きい質問はその限りではありません。
薬学研究の書類作成
・研究計画書は各大学や施設のひな型をチェック
まとめ
医療を取り巻く環境は常に進化、高度化を遂げています。きちんとした研究を行い、適切なエビデンスとして示していくことは今後の薬剤師にとって重要なことです。
とは言えテーマ選び、研究計画、資料収集、倫理審査、調査実施、統計解析、さらに学会発表や論文投稿に至るまでにたくさんの壁があり、研究の敷居は高いです。
そこで、ひとりの薬学生であるわたしの研究プロセスを文字にして残してみようと思いました。この投稿が薬学生(特に低学年)の目にとまり、臨床系の研究室に進んだり、将来医療現場で研究に取り組んだりしていただければ幸いです。
Doing more with less!